Mission Hill School(Boston)への閉校命令について

 個人的に、このGWはDWとかBWとか呼ぶしかないものになってしまった。GoldenではなくGloomyなら、頭文字はそのままでいいのかもしれないが。

 

 パンデミック前におよそ10年間、毎年2回、1週間ずつボストンに滞在して訪問してきた幼小中一貫校の公立学校Mission Hill School(MHS)が今年度いっぱいで閉校措置となることが決まった。

https://www.youtube.com/watch?v=l5RDhZ3x_nM

https://www.youtube.com/watch?v=irwzVHndvhY

https://www.nbcboston.com/news/local/boston-school-committee-votes-to-close-troubled-mission-hill-school/2713034/

 2年前に前校長からその地位を引き継いだ2人の共同リーダー(一昨年度から1人の校長をおかず、2人校長のような体制を取り、校長という役職名ではなくco-leadersという呼び方をとっていた)が、一部生徒間のいじめ問題や性的非行問題に適切に対応できていないという理由で昨年9月に入る前(現地での新学期開始直前)に休職を言い渡され、その他にも2名の教員が休職扱いになった。

 その後の弁護士らによる調査で、このいじめ問題や性的非行問題が、前校長時代から適切に対処されてこなかった点が指摘され、保護者からの訴えにもかかわらず、いじめ加害者に十分な措置が取ることもなく、また、そうした問題に関する報告書の作成や報告義務も怠ったことが明示された。報告書を読む限り、また、MHSに好意的である学校外の私の知る複数の人の話を聞く限りでも、前校長の判断や動き方に無視できない過ちがあったことを否定することはいまや難しい。

 関係者一同ショックを受けている。私はショックを受けているだけでなく、報告書を読み、上述の知人とメールでやり取りをしつつ、事態の理解が徐々に進む中で、大きな反省も強いられている。私は、MHSに冒頭に述べたように何度も訪問してきたし、この学校の在り方やそこでの実践を称賛的に日本に紹介し、前校長を日本に招いて、本務校や他大学で講演会やセミナーを企画・実施したことさえあるからだ。その上、昨年度には、私は、MHSの共同リーダーの解任を取り消すための署名活動に個人として賛同するのみならず、SNSなどを通じて多くの人に賛同署名への協力を呼びかけたという経緯もある。

 実は、数年前MHS訪問時のある日の学校運営評議会で、少数の保護者が当時の校長(前校長)の解任動議を提出した時に、その場面をあっけにとられながら目撃したこともあった。結局、反対多数でその動議は否決されたのだが。この時の問題を丁寧に調べようとしてもできなかったとは思うものの、それでも、今回の報告書の調査結果が真実なら、当時の校長や学校側に肩入れしすぎて目が曇っていたのだと指摘されても反論することができない。私たちが学ぶに足る実践を重ねている学校として私が何度も訪問してきた学校を率い、日本に招きまでした校長への敬意は今でも変わらないが、その校長が誤った判断・行為(不作為を含む)をとったことをもはや認めざるを得ないのである。

 4月27日に上記報告書が公開され、教育長がMHSへの今年度限りの閉校を勧告予定だという談話を含めて、この問題がマスメディアで大きく報じられてから、私は信じられないという気持ちを抱きながらも、とにかく分厚い報告書を読み進め、関係各方面に可能なコンタクトを試みてきた。

https://www.documentcloud.org/documents/21749098-mission-hill-school-equity-impact-statement-1

https://www.msn.com/en-us/news/us/scathing-investigation-prompts-boston-superintendent-to-recommend-closing-e2-80-98failed-e2-80-99-mission-hill-school/ar-AAWFzai?ocid=uxbndlbing

https://www.nbcboston.com/news/local/boston-superintendent-recommends-closure-of-mission-hill-k-8-school/2705535/

 予想されたように、当事者や現在も教員として同校に勤めている方からは今のところ返信はない(もちろん、返信を求めてもいない)。しかし、この学校を支援してきた外部団体の専門家、あるいはMHSで教員を務めた経験があり今は研究者として大学で教えている方とは、頻繁にメールでやり取りをして意見交換をしてきた。ショックの大きさは変わらないものの、こうしたやりとりができたことは、1人だけで考えるよりは、辛いながらも次を見据える上で大きな助けになっている。

 現段階では、次の2点のことだけを補足的に述べておこうと思う。1つは、弁護士調査団がまとめた報告書の全てを是認しなければならない(と私が思っている)のか?という点について。この問いに対する答えは明確にNoだ。校長や管理職の判断に誤りがあったとしても、同報告書が、今回の不祥事の原因がMHSの教育理念や学校風土・運営体制という根本にあるという結論はあまりに短絡的だと考えざるを得ない。もしそのような結論が正しいとするならば、多くの保護者と子どもがずっと前にこの学校から去ろうとしていただろうし、抽選で入学者が決まるこの学校に移ってきたくて欠員待ち名簿に多くの家庭が名を連ねるということもなかっただろう。この報告書には、自律的で民主的で、やや「緩い」文化を持つ学校への敵意にも見える論調が目立つように思われる。今回の不祥事を、そうしたそもそも論に還元することが適切だとは思えない。ただ、私自身、上述のように少なくとも部分的に事態を見誤ったという経緯がある以上、今回のこの報告書の論調や結論づけの仕方、その報告書の教育長による受け止め方等の妥当性に関しては、その記述・発言を精査した上で、私の印象論の妥当性とともに改めて検証する必要がある。あえてさらに付言すると、現在の教育長は、ボストンのパイロット・スクールの自律性の意義に懐疑的であることは間違いなく、今回の問題をきっかけにさらに教育委員会による統制が強化される可能性があるだけに、この点も注視したい。

 もう1つは、私だけではなく、広く注目され賞賛もされてきたMHSで、なぜこのような問題が生じてしまったのかという点に関してである。これも、今はもちろん仮説とも言えないような可能な推論として示すことしかできないが、上に触れた最近の比較的長文のメールでのやりとりの中で、同校でかつて務めていたある研究者が示唆してくれたことでもある。まず、初代校長Deborah Meierという巨人なしには、この学校の設立(1997年)も絶対になかったわけだが、同等のリーダーシップ(ただし、全く強権的でも権威主義的でもない)を彼女以外の誰に期待することもあまりに酷ではあるものの、こうした特徴的な(言い換えれば、州の方針とは異なるスタイルの教育を実践するだけに、攻撃を受けやすい)学校の持続可能性には、そのようなリーダーの存在が無視できないのかもしれないということだ。巨人的リーダーが去った後のこうした先進的な学校は、常に存続の危機に直面すると言っても過言ではない。しかも、同校が、2012年に現在の場所に移転して、フルインクルーシブ教育を目指すことになったものの、人的・物的リソースが限られ、様々な種類の特別支援教育への対応に伴う困難さは簡単に解決できなかったことにより管理職にも教職員にも負担(神経をすり減らさねければならない問題)が増す中で、目の前の問題を直視したり、問題の優先順位を的確に判断したりすることを、自らの高い理想と努力への自負が妨げていた可能性がある。これは伴奏すらできずに、ただ支援的に観察していたすぎない自分の在り方・感覚にも符号する。特別支援を要する子どもが多い中での対応の不十分さは、それこそスクール・クオリティ・レビューと呼ばれる訪問調査の結果報告書(2014年)でも明確に指摘されていた。しかし、その批判的指摘は、自分たちの取り組みを見直す上で非常に有意義で学校側として大変ありがたいのだと力説してくれた当時の校長の言葉を、私は尊敬の念を持って聞き、大きな疑問は感じなかった。

 こうした諸点に関して、日本にいながら、どこまで学術的議論に耐える水準で検討を重ねることができるかという点では甚だ心もとないけれども、この学校における教育実践を学会報告等でも取り上げ、その積極的意義を強調してきただけでなく、その意義は、今回のスキャンダルを受けた後でも基本的には変わらないのではないかと考えてもいる私にとって、自分に利用可能なデータや資料に基づいて、本当にそう言えるのか、言える(あるいは言えない)とすればどういう意味でなのか、どうしてなのか、と改めて問い直していく必要がある。

 以上、全く簡略で不十分だけれども、この学校を研究対象としてきた者として、私のような者の仕事に多少なりとも関心をお寄せいただいたことがある方々への、現時点でさしあたり私に可能なご報告とさせていただきたい。