仕事で書いた小文③:「探究」型学習のためのコラム

minor-pop2008-07-12

 今回もまたまたお手軽更新。仕事で書いた文章のために書いたものの没原稿(^^;;)>。実際に掲載されたものの元バージョン。
 文科省webサイトにアップされた新しい学習指導要領解説(「総合的学習の時間」編)を読むと、この没原稿の出だしも悪くはないと思うのだが、能書きっぽいということで削除・改訂となった次第。
 改訂原稿は、 浅沼茂編『新教育課程の学習プロセス・No.3 「探究型」学習をどう進めるか─学習の創造的発展と問題解決力の育成』教育開発研究所、2008年7月(定価:2520円(税込)/ISBN:4873809977)に所収。

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子ども中心の課題設定を重視した探究型カリキュラムへ

1 「総合的な学習の時間」における「問う」ことの位置づけ
 「総合的な学習の時間」は,平成20年改訂学習指導要領では「各教科」で示されている「目標」と「内容」にあたる部分を,学校ごとに記述したうえで実践すべきことが明示されている。これは,平成15年の一部改訂学習指導要領を踏襲したものである。
 ここで着目したいのが「目標」「内容」における「問う」こと=課題設定の位置づけである。総合学習の出発点は「自分なりの問いを立てる」ことである。学習指導要領の目標にも「自ら課題を見付け」ることが含まれている。この点を重視すれば,学校・学年で大枠のテーマが定まっていても,そのテーマに関連する限りで「自分の課題を見付ける」という点を「目標」のなかに明記することになろう。これを承けて,「内容」においても,たとえば「○○について,教師の助言を得ながら,自分なりの探究課題を設定できる」「△△や□□について,自分の調べたいことを,調べられる見通しを持って,簡潔な文で示すことができる」「◇◇というテーマの範囲内でさまざまな情報を参照しながら,自分が探究する問いを明確化することができる」といった項目を設定することが考えられよう。
 目標や内容において「自ら課題を見付け」ることの重要性を強く意識することで,できるだけ子ども自身が,自らの試行錯誤を通して「自分なりの問い」を明確化する過程を大事にしたい。
 これに加えて,注意を払っておきたいことがある。同じく学習指導要領で触れられている「学習の評価」に関してである。評価においては,「自己評価」の内容を子どもができるだけ明確な言葉で表現する機会を重視したい。自らの探究活動を的確に振り返ることが,新たな課題を明確化することにつながると考えられるからである。
 この振り返りの作業は,最後に1回だけ行うのではなく,計画段階や中間発表段階などを含めて2〜3回設けることも考えてよいだろう。また,子ども自身による明確な意識化の作業をうまく引き出せるような評価項目や,意欲的に振り返りの作業に取り組めるような機会を,教師が独自に工夫することが求められよう。

2 米国のミドルスクールにおける探究型カリキュラムから
 最後に,米国のあるミドルスクールにおける探究型カリキュラムづくりの事例を紹介しておこう。ここでは,ウェビングを用いて,自らの探究課題を明確化する過程を経て,総合学習が展開されていた。
 日本でもかなり普及してきたこのウェビングとは,ある概念を中心として連想されるさまざまな項目を網の目上に配置し,その意味連関を視覚的に図示することで,「自らの問い=考察すべき内容」の全体像を把握するために用いられる。下に示した図の「大きい概念」とは,このクラスで,自然・社会に関する総合学習が進められるときの中心論点となるキーワードが,こう呼ばれていた。


 ウェビングを用いて探究課題を明確化する過程で踏まれる手続きとして着目しておきたいのは、生徒たちがまず一人ひとり別々に自分なりの「問い」を簡潔にまとめる過程を踏む。その際生徒たちは,自分自身に関する問いと自分が住む世界に対する問いを立てるよう指示される。前者はたとえば「なぜ僕はこんなに背が低いのだろう」「私の体の器官はどういうふうに生き続けているのだろう」「自分の肌の色はどこから来たのだろう」「僕は成功して幸せになれるのだろうか」といった問いであり,後者は「太陽が消滅したらどうなるのか」「鳥はどうして飛べるのか」「エイズの治療法は出てくるのだろうか」「人種差別はどのように始まったのか」「なぜ一部の人たちは同性愛者になるのだろう」「全ての人間が生き残っていけるような時代は来るのだろうか」といった問いである。
 こうして個々の生徒が自分なりの関心にそっていくつかの問いを明確にした後,グループ作業に移る。そこで,グループメンバー全員に共通する問い=考察テーマを探る。このプロセスは,必ずしも平坦なものでなく,対立や妥協をも含むものだが,最終的にグループ内で,「宇宙空間」「死」「住む場所・文化」「争い」などというテーマに収斂されていく。同時に,そのなかで,各グループの問いにふさわしい活動計画も明確化する作業が進められる。つまり,何をどのように調べ,考察し,その結果をどのように表現するのか,どのような作業分担にするのかなどが具体化されていくことになる。
 この過程の主体はあくまで子どもであり,教師の役割はファシリテーター(facilitator)という位置づけになる。すなわち,問いを立てる段階で生徒が苦しんでいる場合には,問いの立て方のモデルを示し,問いを立てるうえで役に立つ資料に関するヒントを与えたり,グループ作業で1人か2人の生徒がグループ全体を牛耳ることがないように助言したり,全ての生徒に耳を傾け,生徒を励まし,どの生徒も有意義な課題設定に参加できるように働きかけるのである。
 この学校では,この総合学習の成果を発表する会を開くだけでなく,学年終了時に,子ども中心の三者面談,つまり,子どもが司会進行を務める面談の機会を設け,親と教師の前で自らの作業を振り返っていた。そこでは保護者や教師からの励ましと質問が,子どものさらなる探究への意欲をかき立てると同時に,子どもが自らの探究課題をさらに次の段階へと育てていくことに寄与していた。
 こうした取り組みは,子ども中心の課題設定を重視した探究型カリキュラムの一つの典型と言えるかもしれない。