個別化・個性化教育(4):愛知県東浦町立石浜西小学校授業研究会

minor-pop2008-05-28

 日本の個別化個性化教育の先進地域と言ってよい愛知県東浦町において、つい数年前まで困難校と言われながら、二教科同時進行単元内自由進度学習のカリキュラムづくりを開始し、いまやこの実践やそのための学習環境整備の充実ぶりには目を見張るものがある石浜西小学校(小山儀秋校長)で、小学校5年生と6年生のこの学習(石西では○○学習の名で呼ばれる)の授業を見学し、現職研修会に参加した*1
 この学校は、全校生徒250名のうち約3分の1にあたる80名程度が、ブラジル等南米系の外国籍児童で占められているが、4月24日(木曜日)にホテルオークラ東京「平安の間」で、日本政府主催により、日本側からも天皇皇后、首相をはじめとする要人の出席を得て開催された「日本ブラジル交流年・日本人ブラジル移住100周年記念式典」に、日本の学校で唯一招待され、子どもたちがメッセージと歌を披露した。まさに、いろいろな意味で脚光を浴びるにふさわしい学校になった。
 この日伯100周年事業は学校にとって、ある意味で付随的なことだとしても、今回現職研修に参加して、学校の雰囲気もいい意味で落ち着いてきており、先生方がご自分たちの学校・取組を肯定的に見る雰囲気や自信が高まって来ているように感じた。

 さて、今回冒頭に触れた○○学習の授業を見学して、改めて考えたことだが、この二教科同時進行自由進度学習は、加藤幸次氏のタームにならえば、学習(内容)の個性化というよりも、指導(方法)の個別化という枠組みでくくられる授業方法論だが、当然のこととはいえ、この二極は白黒明確に分けられるものではなく、場合によっては、その間にいろいろなグレーを、つまりは、個別化と個性化の間にある種のグラデーションを想定することは可能だろう。その意味で、○○学習は、そのベースが「指導の個別化」にあるとしても、その中での発展的学習や、ものづくりコースにおける各自の工夫や作業内容を見ると、そこには学習(内容)の個性化という要素が確実に入っていることに(おそらく遅ればせながら)気づいた。
 石西では、総合学習等の「学習(内容)の個性化」という部分では、あまり目立った取組は進められていないと言えようが、学校の現状を考えると、総合学習の充実化に向けた展開を図るよりも、○○学習を進める中で、この個別化と個性化の両要因に着目するという方向性を採用した方がいいのかもしれないとも感じた。石西の○○学習を見ていると、学習方法の個性化、という言葉を使いたくなるほどだ。

 ところで、今回は学生を数名連れて行ったので、その学生が携帯メールで送って来てくれた感想を以下に列挙して、手抜き更新とさせていただきたい。

 優れた学校には、結局、実践家、研究者、学生といろいろな人が集まってくる。むろん、いろいろな人を集めながら、いい学校に育て上げていかれるという側面もあるわけだが。とにかく、学生はみんな喜んでいた。石西の先生方に感謝。反対に、自分の話がへたくそで申し訳なく感じるところがあるが、次回また頑張ろう(^^;;)>。

【学生の感想(人名固有名詞以外、校正なし)】
(1)《石浜西小学校授業研究会の感想》
 私は今までに何度か石浜西小で、現職の先生方の研修会などに参加させていただきました。そのためもあり、今回のようなプログラム学習(二教科同時進行単元内自由進度学習=○○学習)を行っていることは前々から知っていました。しかし、実際に子どもたちが学習している姿は一度も見たことがなく、なんとなくのイメージしかありませんでした。
 それがどのような活動なのか、資料などにも目を通して臨んだ研究会でしたが、それは想像を絶するものばかりで、驚きの連続でした。
 まず目にしたのは、広い教室には不釣り合いだと思えるほど少ない子どもたちの数。「他の子たちはどこに行ったの?」と思わず子どもに聞いてしまいました。
 子どもたちの姿やワークシートなどに目を通していくうちに、○○学習の流れが徐々に分かっていきました。また、それと同時に子どもたちの学習に対する意欲関心も伝わってきました。それを実感したのは私が子どもに沖縄の家の前に置いてある石垣を指して「これは何?」と質問したときでした。子どもは「名前忘れちゃった。調べるからちょっと待って。」と言ってすぐに資料集を開き始めました。私はその姿を見て、一人学びをする姿勢が子どもの中に形成されているなと実感したのでした。
 周りを見渡してみると、どの子も静かに、そして意欲的に活動している姿が見られ、先生方の指導力があるからこそこの学習活動が成立するのだと思いました。
 その他に私が感心したのは、学習環境の素晴らしさです。どこに行っても教材があり、子どもたちが学ぶための環境が整えられていました。その中でもっとも驚いたのは、生まれて間もない赤ちゃんを子どもたちの前に登場させ、その赤ちゃんを元に講座を行っていたことでした。この講座は子どもたちにとって、どんなにたくさんの本で調べるよりも、はるかにためになるものになったに違いありません。私は今回の研究会で学習環境の大切さを痛感しました。
 事情があって、最後まで研究会に参加できなかったのは残念でしたが、実際に○○学習を見ることができたため、たくさんのものを得ることができました。また機会があれば、もう一度伺えたらいいと思います。本当にありがとうございました。

(2)こんばんは。昨日はありがとうございました。大変良い体験ができました。
○○学習について配布資料とS先生のブログから得た知識しかなかったのですが、実際に見させていただいたものは考えていた以上に素晴らしいものでした。そして1人ひとりがしっかり目的意識を持って課題に取り組み、自分の力で必要な情報を得ていて、これが目指すべき教育ではないのだろうかとも思うくらいの衝撃を受けました。また、石浜西小学校の環境の良さに感動もしました。教室だけでなく、学校全体が学ぶ場だと感じました。
 今回の体験は私に大きな刺激を与えてくれ、教師になりたいと改めて思うことができました。また機会があれば行きたいと思います。


(3)昨日、石浜西小学校の○○学習を見て、とにかくすごい!!こういう学習ができる石浜西小学校の子どもたちがうらやましい!!とただただ感じました。
 どうしてこんなに子どもが落ち着いて一人学びが出来ているのか? 
 今まで自分が小学校で学んできたことや、教育実習、ボランティアで行ったどの小学校と比べても、石浜西小学校の○○学習の様子が不思議でたまりませんでした。ほとんどの子が集中して、自分の課題に取り組み、また中には、課題をこなす中で生まれた疑問に対して「はやく調べよう。」と友だち同士で声を掛け合い、とても意欲的に取り組む姿を見ていて、すごいなぁ、いいなぁと思いました。
 また、一人ひとりが自分のペースで自分の課題に取り組み、隣では別のテーマの学習をしている友だちがいる。やっていることはバラバラでも互いに意見交換し合ったり、一緒に考えたりしている。この姿もとても不思議でした。一緒にやってるけど一人学び。しかし、助け合っている。
 あと、学校の中にあるビオトープにもとても興味がわきました。実際にすぐメダカや、生き物を捕まえることができ、目で見て、触ることができる環境が整っていることにも感動しました。また、○○学習の中で、学校内を自由に使って勉強できることがとても素晴らしいと思いました。普通、小学校の特別教室(パソコン教室や理科室や図書室)にはいつも鍵がかかっており自由に入ることができないことが多いと思いますが、好きな時に好きな場所で、使いたい道具を使い学習がすすめることができることが本当に素晴らしいし、子どもにとって学びを深めやすい環境が整っており子どもたちは、石浜西の全てで学んでいるのだろうなと思いました。
 また、一番面白かったのが、F先生の赤ちゃんと触れ合う時間でした。ほとんどの子どもが赤ちゃんに興味津々で赤ちゃんにはやく触りたい、抱っこしたいという子どもが多い中、少し一歩引いて赤ちゃんに興味はあるが、一度も赤ちゃんに触ろうとしない。しかし、とても気になるから周りにはいる。このような姿も見れて面白いなぁとおもいました。また、赤ちゃんだけでなく、3歳のまさとくんと遊ぶ子どもたちの様子も見ていてほほえましかったです。
 最後に、研修会に参加させて頂きSW先生や、SN先生の子どもを捉えていた視点を聞きとても勉強になりました。昨日はただただ○○学習自体に感動して一人の子どもを追ったりだとか、子どもがどう考えているかまで目が届いていませんでした。研修会の話を聞いてから昨日の見学した様子を振り返ってみると、だからこうだったのかと思える場面がいくつかありました。
 昨日1日で学習環境作り方や○○学習についてなどいろんなことを学ぶことができました。また教員採用試験が終わったら石浜西小学校に行きたいです。
 ありがとうございました。


(4)今日は石浜西小学校を見学することができ、とても充実した一日を過ごすことができました。初めて○○学習のような学習スタイルを見て、驚きと発見の連続でした。今まで自分の行っていた小学校や実習、ボランティアで見てきた小学校のイメージとはかけ離れており、子どもが本当にイキイキと生活し、学習している様子がとても印象的でした。現職教育の研修会にも参加させて頂き、その中からも多くを学び、考えることができました。特に「学習と生活が行き来するような空間が学校にある」という言葉が印象的で、学校はそういう場であるべきなのだと新たな視点を得ることができました。自ら立てた学習プラン、目的に向かって意欲的に学んでいる子どもたちの姿を目の当たりにしたことは、これから教師になろうとしている私にとって、とても魅力的であり刺激的でありました。こんな学校がもっと増えたらいいなと思います。とても勉強になりました。


(5)《石浜西小学校○○学習を見て》
私は二度目の訪問でしたが改めて自然の中にある小学校でのびのびと学ぶ児童の姿に驚きました。また○○学習をじかに見学した感想もまた驚きでいっぱいでした。学校と聞いたときのイメージとあまりにかけ離れているので思わず案内していただいた先生に質問攻めをしてしまったほどです。そしてその話の中でこのスタイルはブラジル人が多い石浜西小ならでわである。ということを知り納得しました。またそのブラジル児童に対する支援も通訳の方を導入するなどと充実しており、児童のことを教員一人一人がしっかりと考えているのだな、と感じました。自由習熟度別学習だとサボったりズルをする子が出てきて大変ではないか、と見学する前は感じていましたが、実際の子どもたちは目の前の課題をまじめにこなしており、先生方の事前の指導のあり方や学習カードが本当に良いものなんだな、と思いました。
この石浜西小学校での取り組みがもっと広く行き渡り子どもたちが自主的に学ぶ楽しさを体験していけたらいいなぁ、と思います。


(6)今日の見学の感想を送らせていただきます。
今日見学させていただいて、自分の中の小学校に対する世界がとても広がりました。
自分が普通だと考えていた小学校のイメージなどが、石浜西小学校ではことごとく普通でなく、全てが新鮮だったからです。
今回の見学で一番印象に残っていることは、週プロの一つ一つの学習の大切さです。
そい感じたのは、赤ちゃんと触れ合う学習をしていた女の子が言った一言でした。
その子は、妊婦体験をしたときはツラいから赤ちゃんは欲しくないと思ったけど、実際に赤ちゃんを見たら欲しいと思ったと言っていました。
もし、赤ちゃんと触れ合う学習が無かったら、その子は赤ちゃんを欲しくないと思ったままだったかもしれないと思うと、週プロをする上で教師の教材研究、計画がとても重要だとわかりました。
以上です。また機会があるならば伺いたいと思いました。


(7)私は、今回始めて石浜西小学校の○○学習を見学させて頂きました。見学させて頂く前は、教師による「知識注入」無しに子どもたちの学力は身につくのだろうか、また、子どもたち同士の学び合いは実現するのだろうかなどという疑問がありました。しかし、実際に子どもたちが○○学習を進めていく姿を見て、これらの疑問は全て解消されました。子どもたちはとても落ち着いた雰囲気の中で、○○学習を進めていました。壁にぶつかった時は、本やインターネットを駆使して問題を解決していました。問題を自分の力で解決する能力をこの○○学習によって子どもたちは身に付けついるということを目の当たりにしました。そして、学習進度の差による子どもたち同士の学び合いもきちんと実現されていました。自分が相手よりも優っている・劣っているという意識が全く無い中、進度が速い子は、遅い子に自分がかつてした学習を振り返ることで、復習をしていましたし、進度が遅い子は速い子の学習状況を見て、新たな目標を立てながら勉強していました。
 この○○学習が実現される背景には、先生方の膨大なる準備があったと思います。見学後に、「○○学習を進めるにあたって、先生が一番苦労されていることは何ですか?」という質問をさせて頂いたところ、「教材研究」という答えがすぐに返ってきました。「子どもたちに学びを自覚させることが教師の役目」ということばを口にすることができる先生方が子どもたちのために団結されるからこそ、○○学習は実現するのだということを実感しました。





*1:2008-2-24の日記「個別化個性化教育(1)」を参照