教育という社会的領域の自律性は?

 もし政府が望ましい内容の答弁を出したのなら、こういう閣議決定で教育課程行政の一部が決まっていくということに問題はないのだろうか。そうなると、少なくとも、教育という社会的領域の自律性が少なくとも部分的には損なわれることになるように思う。

 自分が十分理解できていない研究に触れるべきではないかもしれないが、N.ルーマンという社会学者は、近代社会に特徴的なあり方を機能分化として捉えて、これが私たちの個人としての人権が尊重される社会の基底的条件になっているみたいなことを言っている(『制度としての基本権』)

制度としての基本権

制度としての基本権

と思っているのだが、だとすれば、この機能分化も、ちゃんと守らないとまずいんじゃないか。そして、これも「諦めたら、そこで終わる」のかもしれない。つまり、あって当然と自明視せず、反省的・意識的に守ろうとしないと、介入的アクションがなければ、終わってしまう可能性だってあるのではないかという。

 ただ、社会学で「相対的自律性」という表現も用いられるように、自律性を守るべきだとしても、絶対でない以上、程度問題として捉えるべきなのかもしれないし、だからこそ、どの程度の自律性かということが問題になるのかもしれない。

 こういうことを書いている時に念頭にあるのは、最近のヘイト・スピーチ問題とこれに対する規制法のこと。私は、この規制法を評価しているので、国家によるすべての規制は危険という考え方には与しない。

 なので、教育の自律性を取り戻せだけではあまりにナイーブになるのではないかとも思う。

 けれども、教育再生実行会議という政府与党内の機関が、学習指導要領の改訂という教育課程行政の本丸に対する介入の度合いを確実に強め、その上、今回の閣議決定という介入。

 くわえて、重田園江氏が、最近指摘されていたように、「経済のボキャブラリーがあらゆるところに浸透している」*1ということは、教育にも言えて、その点でも自律性は危うくなっている。

 さて、ここから先、教育という領域のどういう自律性をどのように再構築していくべきなのか、これも公教育の再編問題の一部なのかもしれない。

 しかし、Does this make sense? と自分の問いに問わざるをえないほど自信はない。けど、どうも気になって書き留めた。

 きっかけは、冒頭に書いたように、最近の教育勅語関連問題だったので、以下に、資料集代わりに、その経緯を加担に記載しておく。
[付記:そういえば、小山裕氏の本が、積読のままでちゃんと読んでないのがバレバレだ(なのに、本に自分の書き込みがあるというのも困りものだが)。もしかしてドンピシャかもしれないこれ読んで勉強すべし。*2 ]

・2月9日 森友学園への国有地払い下げ問題に関する報道開始
・2月17日 衆院予算委員会 森友学園への国有地払い下げ問題に関する安倍首相発言「私や妻は一切関わっていない。もし関わっていたら間違いなく、首相も国会議員も辞任するということを、はっきり申し上げる」。以降、各紙報道過熱。塚本幼稚園での指導の様子を映した動画も拡散流布。
・2月27日 逢坂誠二民進党質問主意書提出 質問番号93:教育基本法の理念と教育勅語の整合性に関する質問主意書[→3月7日 答弁受理]*3
・2月28日 大阪府森友学園の調査開始の報道(→3月31日立ち入り調査、書類確認できず調査継続の報道→4月13日調査続行の報道)
・3月7日 質問番号93(2月27日)の答弁受理
・3月9日 逢坂誠二議員(民進党質問主意書提出 質問番号118:稲田大臣の「教育勅語の精神は取り戻すべき」発言に関する質問主意書[→3月17日 答弁受理]*4
・3月14日 松野博一文部科学大臣記者会見*5
・3月17日 質問番号118の答弁受理
・3月21日 初鹿明博議員(民進党質問主意書提出 質問番号144:教育勅語の根本理念に関する質問主意書[3月31日 答弁受理]*6
・3月31日 質問番号144の答弁受理
・4月3日 公教育計画学会理事声明文発表:「教育勅語」の容認と銃剣道の学校教育への導入に強く反対する*7
・4月4日 松野博一文部科学大臣記者会見で教育勅語関連問題に言及*8
・4月6日 宮崎岳志議員(民進党質問主意書提出 質問番号206:「教育ニ関スル勅語」の教育現場における使用に関する質問主意書[4月14日 答弁受理]*9
・4月6日 宮崎岳志議員(民進党質問主意書提出 質問番号207:アドルフ・ヒトラーの著作「我が闘争」の一部を、学校教育における教材として用いることが否定されるかどうかに関する質問主意書[4月14日 答弁受理]*10
・4月7日 衆議院第5回内閣委員会 泉健太民進党)質疑と義家文科副大臣答弁:朝礼における教育勅語の唱和も、憲法教育基本法に反しなければ問題ないという趣旨の答弁*11 参考:第98国会参議院決算委員会第11号議事録*12
・4月8日 朝日新聞が義家文科副大臣答弁について報道*13
・4月10日 長妻昭議員(民進党質問主意書提出 質問番号219:教育勅語を道徳科の授業で扱うことに関する質問主意書[4月18日 答弁受理]*14
・4月14日 質問番号206及び207の答弁受理
・4月18日 質問番号219の答弁受理
・4月24日 長妻昭議員(民進党質問主意書提出 質問番号259:幼稚園児や小学生等に教育勅語を朗読させる教育に関する質問主意書[5月8日現在、答弁に関しては未完了または未公表]*15
・4月27日 教育研究者有志「教育現場における教育勅語の使用に関する声明」発表*16本田由紀氏らによる記者会見。同日、各紙報道。
・5月8日 教育史学会声明文発表:「教育二関スル勅語」(教育勅語)の教材使用に関する表明について*17
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