「見通し・振り返り」学習活動における言語活動充実化のために

・ 個々の子どもの主体性が発揮される単元・授業構成が重要
・ 指導書やマニュアルに頼らない教師の主体的な試行錯誤が必要
・ 質の高い言語表現活動を生むには、質の高い問題解決学習が鍵

1 子どもの主体性こそが核である
 何よりもまず、なぜ「教育課程実施上の配慮事項」として、「見通し・振り返り」という要素の重要性が指摘されることになったのかという点に、私たちは思いを致す必要がある。およそ、人が何らかの学習活動に取り組む際に、見通し・振り返りの契機が訪れないことの方が不自然だからである。その背景には、どのような事態が存在すると考えられるだろうか。とはいえ、その答えは単純である。
 それは、多くの学校で子どもが見通し・振り返りなしに漫然と勉強している蓋然性が高いということを示唆している。目の前の大人に指示されたことを指示された通りに進めるだけなら、子どもにとって、先の見通しを持つ必要性や、振り返りという局面に動機づけられる可能性は低い。あるいは、目の前の大人が期待していることに沿うことが、子どもにとって最も重要だとすれば、見通し・振り返りにあたる活動があっても表層的なものになりやすい。反対に、私たちは自ら興味を持てる問いや、重要性・必要性を認識できる目標を持つ場合、問題解決や目標達成のために「見通し」を立て、自分の取組や成果に関する「振り返り」の作業に真剣に取り組む可能性が高くなる。
 「見通し」や「振り返り」における「言語活動」を意義深いものにするために最も重視すべきポイントも、実はここにある。具体的な方法論も大切だが、学習活動において子ども一人ひとりが「主体性を発揮すること」――これこそが、見通し・振り返りという学習活動の必然性と、そこで子どもが展開する言語活動の豊富化をもたらすことを再確認したい。逆に言えば、子どもの主体性が軸になっていない限り、どんな技法を駆使しても、その見通し・振り返りは形骸化し、そこに現れる言語活動も貧しいものになろう。
2 教師の主体性が子どもの主体性の基盤になる
 では、子どもたちが自らの主体性を発揮するために、教師にとって最も肝心なことは何か。それは、教師自らが主体性を発揮し、子ども中心の学習活動に関する創意工夫を試みることである。学習指導要領解説も、必須であるにせよ、あくまでガイドラインや参照事項に過ぎない。
 実際、小中学校全教科の学習指導要領解説を通覧すれば分かるように、総則編では、各教科等で見通し・振り返りの学習活動が重要だと唱われながら、各教科編におけるその取り扱いには、教科特性という以上の差が見られる。たとえば、小学校の音楽編では、子どもの見通し・振り返り、及びそれに伴う言語活動に関する巧緻な解説がなされているが、中学校音楽編でのこれらに関する既述は皆無に近い。また、体育(保健体育)編の場合、子どもの見通し・振り返り活動に関する説明は小中ともに全く見られない。しかし、中学校の音楽においても、その創作・鑑賞において、曲の全体像に対する「見通し」を持つことや、創作・鑑賞後の「振り返り」、それに伴う文章作成や口頭発表・討論等、言語活動の活性化は重視されてよく、体育にしても、ある種の技・プレーの習得や工夫、ダンス等の創作活動、さらに保健分野の学習に、同様の観点を適用することは可能であり、むしろそうすべきであろう。
 とすれば、大切なのは、各教師が、その地域や学校、子どもたちの諸条件に合わせて、部分的にであれ、授業を実質的に子ども主体になるよう編み変え、子どもによる見通し・振り返りが意味をなし、それがより質の高い言葉で表現されるような工夫について試行錯誤を重ねることである。以下では、そのヒントになるような一定の指針や実践上の工夫を簡潔に紹介しておこう。
3 具体的な指針と実践上の工夫
 ここでは、さしあたり次の5点を挙げておくことにしたい。
(a) 問題解決場面を軸にする(体験活動や合科関連指導は有効)
(b) 一定の時間的スパンを確保する(言葉を豊かに紡ぐためのゆとりが必要)
(c) 個別活動(多様性)と集団活動(共同性)をともに重視する 
(d) 固有名詞レベルで特定の子どもをターゲットに単元計画を作成する
(e) 言語活動を「表現」活動として位置づける 
 順に具体化していこう。何よりも重要なのは、目の前の子どもたちが、すすんで取り組みたいと思える問題・課題を中心に単元・授業を構成することである。取り組みたい問題を、子どもたち自身がウェビングなどを活用して(個々に/協働で)立てても、子どもたちの興味をひく課題を教師が与えてもよい。これは白と黒の関係にあるものでなく、その間にある様々な色合いのグレーとして捉えるべきで、その濃淡は場面に応じて使い分ければよい。いずれにせよ、追及したい課題を持つことで子どもたちは主体性を発揮し、一定の支援や環境整備があれば、予測や計画を立てるなど一定の見通しを持ち、その活動の途中及び結びに、自らの、また互いのパフォーマンス(活動・成果)の振り返り=自己評価・相互評価という言語活動に向かうことだろう。
 その具体的なしかけは、教師の腕の見せ所である。典型的には、体験活動を取り入れることが考えられる。大型動物(山羊や豚など)の飼育など、子どもに真剣な問題関心を惹起する体験活動は数多ある。そうした活動を軸に合科関連的指導を試みてもよい。「配慮事項」における「各教科等」という言葉は、截然と区分けされた教科目内部でのみ問題解決場面を設定することを意味しない。総合学習を軸に、様々な教科・領域を組み合わせることで、教科という外的要因でなく、子どもたちの興味関心という内的要因を中心とした単元構成が可能になる。むろん、単一教科内で問題解決場面を工夫することもできる。たとえば、社会科で学ぶ地元ゆかりの歴史上の人物に扮して教師が登場し、簡単に「自己」紹介した上で、子どもたちに「さあ、私のことをできるだけ詳しく調べ、私が生きた時代、私の考え方や行動、苦労や成果について、地域の人たちに知らせるための手紙を、私になりきって書いてほしい」と言うような課題の与え方は示唆的だ。質の高い探求活動こそが、質の高い見通し・振り返りとその言語活動を産むとすれば、そうした問題解決型学習のあり方を実践的に探究することが教師には求められる([1]を参照)。
 そうした学習であれば当然、1−2時間では完結せず、10時間、あるいはそれ以上のスパンで単元が構成されることも十分にあり得る。このことは、子どもたちが見通し・振り返りという活動に必要性や必然性を持って取り組む上でも重要なことである。あまりにも短いスパンでは、一部の子どもたちは、追究すべき課題を見つけたり、自分のものとして引き受ける前に活動が終わってしまうとか、どうせすぐに教師や「できる子ども」が正解や望ましい方向を与えてくれると考えてしまうことで、自立的な見通し・振り返りに動機づけられなくなる。理解や作業が速くない子どもも、自分なりの見通しや振り返りができるよう教師が見守ったり、人から与えられた効率的計画より、不効率でもその子なりの試行錯誤を尊重したりできる「ゆとり」を単元計画に持たせることは考慮されてよい。その点で、一部の学校で試みられている自由進度学習は大いに参考になろう([2]を参照)。時にこうした「ゆとり」を設けた方法を用いることが、いろいろな子どもたちが自分なりに納得の行くまで考えられることで、自尊感情が満たされ、その納得や自信から充実した振り返りの言葉が生み出される可能性が高まるのである。
 「見通し・振り返り」は自立的な活動になるべきである。自分なりに考え抜いた予測、自分なりの言葉で練り上げた計画案だからこそ、後で振り返る意味があり、そういう思考や言葉を持つ個が集まってこそ、集団としての豊かさも担保される。その点で、たとえば、ウェビングを用いて集団で学習活動の計画を立てる際にも、個々の子どもが一人になって考える場面も大切にしたい。不正解にも、予測が外れることにも、我々が認識を深めたり、経験値を高める上で意味があるとすれば、個の多様性を最大限に確保した上で、集団での取組を活性化できるような工夫を考えたい([3]を参照)。
 さて、目の前の全ての子どもに充実した見通し・振り返りの言語活動に取り組ませたいという教師の願いから大風呂敷を拡げると誰もひっかからなくなり、反対に、ふだん眠そうにしているあいつに、こんな取組を用意するときっと食いついて来るはずだと、特定の子どもをターゲットにしたコース設定を含む単元計画を創ると、逆説的に、多くの子どもが「網にかかる」ことも多い。たとえば、図工の好きなあの子を念頭に置いて、てこの原理の授業を、いきなりそのおもちゃづくりから始めると、予想以上に多くの子どもが食いついてきて、懸命に「設計」し、失敗を乗り越えて創造的なおもちゃを制作し、学習活動の節目で、科学的に質の高い言葉を用いて「自己・相互批評」を展開してくれるかもしれない([2]を参照)。
 最後に、見通し・振り返りにおける言語活動が、何よりもまず「話す/書く」という表現行為であり、表現とは原理的に他者に向けられるものであるという点を、子どもたちの動機付けに応用する工夫を考えたい。すでに日本でもポートフォリオを用いたポスターセッションを単元の終わりに子どもたちに課す実践も見られるが、アメリカのある学校では、学年終了時に、子ども中心の三者面談、つまり、子どもが司会進行を務める面談の機会を設けている。この面談に向けて、他の子どもたちと前日までリハーサルが繰り広げていた子どもたちは、本番で、親と教師の前で自らのパフォーマンスを「振り返り」、保護者や教師からの質問や感想・励ましを受けて、さらなる探究への意欲をかき立てられ、自らの探究活動を高次の段階へとステップアップさせて育てて行くための「見通し」を語っていた。
 このように、丁寧に考え抜かれた見通しが振り返りの質を高め、翻って、充実した振り返りの言語活動が次の発展的探求活動への質の高い見通しを与えるという循環関係こそ、子どもが自ら成長を実感できる学習活動の構造を形成すると言えよう。
[1]竹崎有紀子「対象・仲間・自分への認識を深め言語能力を育成する総合的な学習の実践」; 成田幸夫「教科学習(社会科)自由民権記念館を素材にして歴史学習の教材をつくる」(ともに日本個性化教育学会第2回大会配布資料、2009年8月8-9日)
[2] 奈須正裕・小山儀秋編『授業時数増に対応する時間割編成』(教育開発研究所、2008年)pp.185-189;加藤幸次監修 石浜西小学校編著『多文化共生の学校を創る』(黎明書房、2009年)
[3]M.アップル・J.ビーン編 澤田稔訳『デモクラティックスクール』(アドバンテージサーバー、1995年)pp.211-249. 

授業時数増に対応する時間割編成

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